天狗のイメージは、高い鼻と赤い顔、大きな体という特徴から、しばしば恐怖を感じさせる存在とされています。
しかし、天狗の伝説は日本全国に広がっており、その起源や意味について掘り下げてみましょう。
今回は、天狗の背景や様々なタイプについて詳しく解説します。
天狗の起源と意義
天狗は「てんぐ」と読み、「天の狗」という意味を持ちます。ここでの「狗」は「犬」を指します。
天狗の概念は中国にその起源を持つとされています。
古代中国では、天狗は不吉な出来事を予告する「流れ星」とされていました。流れ星は、隕石が大気圏に突入する際に見られ、大気に接触すると爆発音を発します。
この音が犬が吠えるように聞こえ、隕石の輝く落下が天から犬が降りてくるように見えたため、「天狗」という名が生まれたと言われています。
また、古代では月食も天狗の仕業とされていました。月食の原因が不明であったため、「天の狗が月を食べている」と解釈され、不吉な現象とみなされました。
このように、不吉な事象と結びつけられることで天狗には悪いイメージが定着しました。
日本では、「日本書紀」(720年編纂)に天狗が初めて記述されます。
ある時、雷のような大音響とともに現れた流れ星を目撃した人々が驚いた際、中国(当時の唐)から帰国した僧がこれを天狗と説明したと記されています。
しかし、その考えは平安時代中期まであまり普及せず、後の「うつほ物語」(970年代頃成立)では、天狗は山に住む妖怪や物の怪として描かれます。
以後、天狗は日本の各地で様々な形態で神格化されたり、恐れられたりしながら、数々の伝説に名を連ねるようになりました。
天狗の起源と特徴についての考察
天狗は、伝統的に山の奥深くに住む存在とされ、顔は赤く、一本歯の高下駄を履き、山伏がかぶる帽子である頭襟を身につけています。彼らは天候を操る能力や空を飛ぶなどの超自然的な力を持つとされています。
この天狗のイメージは、修験道を実践する山伏から派生したと考えられています。
修験道は、奈良時代に役小角によって創始されたとされる宗教で、自然界のあらゆる事象に神が宿るという神道の信念と、山岳信仰及び仏教の教えが融合した日本独自の信仰です。
山伏は修行により非凡な身体能力や特別な力を身につけると信じられており、その姿が天狗のイメージに結びついたと言われています。
顔が赤いのは、山伏が修行中に赤い面を使用して他人の侵入を防ぐためとも、魔除けとしての色として用いたためとも言われています。
さらに、天狗の高い鼻や大きな体は、外国人の特徴を模したものであるという説もあります。
過去に外国からの来訪者が難破して日本に漂着し、その異様な姿が当時の日本人に恐れられ、山中に住む妖怪と見なされた可能性があります。
そのような特徴が、天狗の見た目に反映されたと考えられています。
天狗の種類とその特徴
天狗にはさまざまな種類が存在し、それぞれが独自の特徴を持っています。
大天狗
大天狗は天狗の中でも特に力が強く、神に等しい、あるいは神そのものとされる存在です。一般的な人間の顔立ちに似ていますが、特徴としては鼻が高く、体が大きく、顔色が赤いです。背中に翼を持つことが多く、修行を積んだ山伏が亡くなった後に大天狗となると言われています。彼らは大きな葉のうちわ、通称「天狗の羽団扇」を持ち、これを持つことで悪霊を払い、天候を操るなど多岐にわたる超自然的な力を発揮するとされます。
小天狗
大天狗に比べて位が低く、体格も小さい「小天狗」もいます。「烏天狗」や「木の葉天狗」もこのカテゴリーに含まれます。
烏天狗
烏天狗は大天狗よりも小柄で、鳥の嘴と翼を持ち、飛行能力があります。これらの天狗は僧侶が使用する錫杖を持ち、それを武器として使用することがあります。
幾多郎に登場するのもカラス天狗だったように記憶しています^^
木の葉天狗
江戸時代の文献に記述されている木の葉天狗は、烏天狗と似た姿やオオカミ、あるいは人間の形をしているとされる多様な外見を持つとされています。
女天狗(めてんぐ)
美しい女性の姿をした女天狗も存在し、彼女たちの特徴は背中に翼があること以外は一般的な女性と区別がつかないほどです。また、高慢な行動をとる女性の僧が「尼天狗」となると言われています。
これらの説明から、天狗とは多岐にわたる特徴と形態を持つ神秘的な存在であることがわかります。それぞれの天狗が持つ独特の能力や外見は、日本の民間信仰や伝説の中で色濃く反映されています。
天狗の神性とその地域ごとの名称
日本の多くの地域で、天狗は神様として崇拝されており、地域によって異なる名前が付けられています。
例えば、滋賀県の比叡山では「法性坊」と呼ばれ、福岡県の英彦山では「豊前坊」、京都府の鞍馬山では「僧正坊」(別名:鞍馬天狗)、静岡県の秋葉山では「三尺坊」として知られています。
これらの名前はそれぞれの地域で古くから信仰の対象とされています。
また、『古事記』や『日本書紀』に登場する猿田彦命は、その長い鼻と高身長から天狗と混同されることがあります。
英語での表現
天狗のことを英語では「a long-nosed goblin」(長い鼻の小鬼)と表現することがあります。
この表現に「with a fan of leaves in his hand」(手に葉っぱのうちわを持つ)や「with wings on his back」(背中に翼を持つ)を加えると、その特徴が英語話者にも理解しやすくなります。
天狗が山伏の姿をしている理由は、天狗と山伏が同一視されることから来ており、山伏が死後に天狗になるとされる信仰に基づいています。
また、天狗には男性だけでなく女性の存在もあり、多様な形態が存在することが確認されています。
天狗は、その妖怪としての恐ろしい側面と同時に、神としての尊敬も集めており、日本の文化において独特な位置を占める不思議な存在です。