秋田県の伝統行事「なまはげ」は、恐ろしい鬼の面をつけ、包丁や桶を手にして家々を訪れることで知られています。
テレビなどで見たことがあるかもしれません。子どもたちが泣きながら逃げる様子や、恐怖で動けなくなる場面が印象的です。
今回は、なまはげの起源や赤と青の面の意味、包丁と桶を持つ理由について詳しく見ていきましょう。
なまはげの起源とは?
なまはげは、秋田県の特に男鹿市、三種町、潟上市などで行われる民俗行事です。
もともとは小正月に行われていましたが、現在では「大晦日」に実施する家庭も増えています。この行事は、怠け者を戒めるとともに、災害や病気を追い払う役割を持ち、新年の祝福をもたらします。
昭和53年(1978年)には「男鹿のなまはげ」として国の重要無形民俗文化財に指定され、平成30年(2018年)にはユネスコ無形文化遺産に登録されました。
なまはげは鬼の面と藁で作られた衣装を身につけ、木製の包丁や桶を持って各家庭を訪問します。訪問前には「先立(さきだち)」と呼ばれる人が家族の同意を得て、なまはげが入るかどうかを確認します。
家を訪れたなまはげは、怠けている者や泣く子どもを叱り、家族が釈明する場面もあります。
この訪問を通じて、家族は一年の健康や豊作を祈願します。なまはげが去る際には、「山に向かって手を三回たたく」という習わしがあり、これはいつでもなまはげが叱りに来ることを意味し、子どもたちに親の言うことを聞かせるための戒めとなっています。
なまはげの由来
「なまはげ」という名称は、秋田の方言に由来しています。
冬場に囲炉裏で温まりすぎると、手足に低温やけどができることがあり、これを地元では「ナモミ」と呼びます。「
ナモミができる=怠けている」とされ、「ナモミを剥ぎ取る者」として、なまはげの役割が生まれました。「ナモミ剥ぎ」が転じて「なまはげ」となったといわれています。
なまはげの鬼の姿には、以下のような複数の説があります。
**漢の時代説**
前漢の第7代皇帝・武帝が不老不死の薬を求めて男鹿を訪れた際、従う5匹の鬼が小正月に村を荒らしたことが起源とされています。この鬼たちは、村人に課せられた厳しい労働から解放される日としてこの日を選び、村々を巡っていたと言われています。彼らの姿が恐ろしいものであったため、人々の間で伝説として語り継がれたと考えられています。
**修験道説**
男鹿の霊場に修験者が訪れた際、その姿がなまはげの原型となったと考えられています。修験者は厳しい修行を積みながら村々を訪れ、悪霊を祓い、人々の生活を守る役割を果たしていました。彼らが身につける装束や持ち物が、現在のなまはげの衣装に影響を与えたとも考えられています。
– **異国人漂着説**
男鹿の海岸に漂着した異国人の姿が村人に「鬼」のように映ったことが由来とされる説もあります。異国の衣装や言葉が理解されず、村人たちの恐怖を煽る存在となり、それがなまはげの原型になったのではないかと考えられています。漂着した外国人は村に新たな文化をもたらし、後の祭りの起源に影響を与えた可能性もあります。
また、なまはげの歴史は、地域の農耕文化とも深く結びついています。冬の厳しい寒さの中、農作業ができない時期には、なまはげが訪れることで家族が身を引き締め、怠けを防ぐという役割がありました。家の中での過ごし方や、家族との絆を深める機会としての意義も持っていました。
現代では、なまはげの起源や意味が再評価され、学校教育の一環として取り入れられることもあります。地域の郷土資料館では、なまはげの歴史を詳しく学ぶことができる展示が行われており、訪れる人々にその魅力を伝えています。
なまはげの色の違いと意味
なまはげの面にはさまざまな色があり、それぞれ異なる意味が込められています。特に、赤と青の面がよく知られています。
- 赤い面(爺さんなまはげ):威圧感を与え、強烈な印象を持ちます。
- 青い面(婆さんなまはげ):赤い面のなまはげと一緒に行動し、「夫婦なまはげ」として知られています。
ほかにも緑、金、銀などの色があり、素材もザル、ブリキ、杉の皮、木彫りなど様々です。これらの面は集落ごとに異なり、地域ごとの特色を反映しています。
なぜなまはげは包丁と桶を持つのか?
なまはげが包丁を持つのは、「ナモミ」という怠けの象徴を剥ぎ取る象徴的な行為に関連しています。また、包丁は災厄を祓う意味も込められています。一方、桶は剥ぎ取った「ナモミ」を集めるためのものですが、実際にはこの行為は行われませんので、安心してください。
なまはげは、御幣(ごへい)と呼ばれるお祓いの道具を持つこともあり、これは神聖な存在であることを示しています。御幣は神道の祭事で使用されるお清めの道具です。
なまはげの衣装は藁で作られた「ケデ」と呼ばれ、地域によって「ケラミノ」「ケダシ」とも称されます。なまはげが大声を上げながら暴れるのは、悪いものを払い落とすためであり、落ちた藁は神様が宿る縁起物とされ、健康や厄除けのために体に巻くと良いとされています。
現代のなまはげ
最近では、なまはげが子どもたちに与える影響が問題視されたり、後継者不足による行事の維持が難しくなっている地域もあります。伝統行事が少なくなるのは寂しいことですが、時代の流れとともに新たな形で受け継がれていくことが期待されています。
大晦日になまはげを見かけたら、一年を振り返り、新たな気持ちで新年を迎えてみてはいかがでしょうか。