毎年お盆の時期に、私たちの祖先や故人の霊が現世から浄土へ戻る道を照らすために「送り火」と呼ばれる行事を行います。
しかし、都市部の住宅環境や環境保護の観点から、かつてのように自宅前で送り火を行うことが難しくなっています。
多くの人々がこの伝統について詳しく理解していない可能性がありますので、ここではその背景や方法について掘り下げて解説します。
送り火の背景と意味
送り火は、お盆の期間中に行われる重要な儀式の一つで、先祖や故人の霊が現世に帰ってきた際にも、再び浄土へと安全に戻ることを助けるために焚かれます。
煙を通じて霊が天へ昇るという考えがあります。
この習慣は、日本独自の仏教行事である盂蘭盆会(うらぼんえ)に根ざしており、他の国々では見られない特有の風習です。
特定の宗派では、先祖の霊を特別に迎えたり送ったりすることは行わないこともありますが、多くの場所でこの伝統は続いています。
送り火の日程
送り火は通常、お盆の最後の日に行われます。
例えば、7月にお盆を迎える地域では7月16日、8月にお盆を迎える地域では8月16日が一般的です。
ただし、これは地域によって異なる場合があり、前日に行うこともあります。
迎え火についても、お盆が始まる前に行うのが一般的ですが、正確な日に焚く必要はなく、地域の習慣に応じて異なる日に行うこともあります。
送り火の正しい行い方
最近では、個人宅で送り火を目にする機会が減ってきており、その正しい方法が分からない人も多いかもしれません。
このため、ここで送り火に必要な準備物や、適切な場所と時間帯について詳細に説明します。
<準備するもの>
焙烙(ほうろく)
これは素焼きの平皿を指し、上に火を焚いて先祖や故人の霊を送るために使用します。
焙烙は仏具店で購入できますが、手に入らない場合は耐熱性のある平皿や灰皿でも代用可能です。
おがら(苧殻)
麻の茎から剥いだ皮部分で、焙烙の上に置いて点火します。
麻は古来より邪気を払う力があるとされ、その炎で周囲を浄化し、不浄な霊を遠ざける役割を果たします。
おがらはお盆の時期にはホームセンターや花屋で容易に手に入れることができ、見つからない場合は松の枝を代用しても良いです。
精霊馬
盆棚に飾る精霊馬(きゅうりやナスで作る神様の乗り物)も一緒に燃やすことがあります。
これは先祖の霊がゆっくりと風景を楽しみながら浄土へ帰ることを意味しています。
行う場所と時間帯
行う場所
一般的には自宅の前や門口で行いますが、現代の住宅事情を考えると、事前に地域の自治会や町内会に確認を取ることが推奨されます。
行う時間帯
送り火は夜の時間帯、具体的には日が完全に落ちた後の時間が適しています。
これは、暗闇の中で行うことで、霊との時間を大切にしたいという願いを表します。
一方、迎え火は夕方、まだ明るい時間に行うことが一般的です。
火の焚き方
おがらを焙烙の上に適切なサイズに折りたたみ、マッチやライターを使用して直接点火します。
燃えにくい場合は、新聞紙などの火付け材を使用しても構いません。
おがらが手に入らない場合には、松や松明を使用することも一つの方法です。
送り火の伝統的な風習
地域によって異なる送り火の風習の一つに、火を家の近くから遠ざかる方向へ跨ぐ行動があります。
これにより、病気や不運などの災難から自身を守るとされています。
さらに、その地域の宗派に基づいたお経を唱えることや特有の祈りの言葉を述べることも行われます。
また、送り火は個人だけでなく、地域全体や団体で共同で行うことも一般的です。
例えば、京都の大文字焼きや長崎の灯篭流しのように、大規模な送り火イベントも行われており、これらも同様の意味合いを持つ伝統的な行事です。
送り火と迎え火の違い(相違点)
お盆には送り火だけでなく、迎え火も行われます。
基本的な実施方法や場所は同様ですが、行う日が異なります。
お盆の終わりに行う送り火に対し、迎え火はお盆の始まりに行われるのが一般的です。
送り火は先祖や故人の霊を浄土へ送るためのものであり、迎え火は先祖や故人の霊を現世へ迎えるためのものです。
迎え火を行う際には、霊が迷わず家を見つけられるように、目印として火を焚くとされています。
また、迎え火は家の遠い場所から近い場所にかけて行うことで、霊を家に招き入れるという意味が込められています。
提灯の必要性
迎え火や送り火を焚く際に提灯が必要かどうかという疑問もありますが、昔は迎え火の炎を提灯に移し、お盆の間、提灯に火を灯し続けるのが一般的でした。
そのため、迎え火や送り火の際には別途提灯を準備する必要があります。
マンションなどの共同住宅では、直接火を焚くことが難しいため、提灯が迎え火や送り火の代替として機能します。
現代では、防災の観点から直接火を使用する提灯は少なくなっており、電気や電池で灯るタイプが主流です。
まとめ
送り火は通常、お盆の最終日の夕方に行われ、先祖や故人の霊を浄土へ送り出すための火を焚きます。
かつては個人が自宅前で行うことが多かったですが、近年ではそのような個人による行事は少なくなり、地域イベントとしての送り火が主流になっています。
京都の大文字焼きや長崎の灯篭流しなどのイベントでは、多くの人々が参加して先祖や故人の霊を送り出しています。
今年もこのようなイベントに参加することで、伝統を体験するのも良いかもしれません。